若林博士によるガラス解説
クリスタル(鉛)ガラスとソーダガラスを合わせて使ったら、まっくろに なってしまいました。
これは何故ですか?【奈良県Y.Oさんより】
どうしても模様などに使いたい時はソーダガラスのクリアを間に入れて 両者が触れあわないようにすればいいのですが、ソーダガラスのクリアにも 作業性を向上させるため鉛を入れている物もありますので気をつけて下さい。 この性質を逆にデザインに利用する手もあります。
いろいろ試してガラスと仲良くなって下さいね!
博士の習作「北アルプスの印象」は大変綺麗なグラデーションですが、 これはパートドヴェールによるものでしょうか?是非教えてください!【愛知県O.Sさんより】
ご推察のとおりパート・ド・ベールの技法で作りました。 正確には覚えていませんが、5〜6段階位の色調整をしたように思います。
透明系の色でコーティングしたミルフィオリを使用すると、玉に入れたときに、輪郭が濁ることが多いのですが、何故でしょうか? コーティングした色が地玉の色と同じでも、濁ってしまいます。 カットした時の切り口が綺麗になっていないから、また、コーティングの内側の色が流れてしまうから・・ 等いろいろ考えて試行錯誤しているのですが、なかなか綺麗になりません。 実際のところは何が原因なのでしょうか?【よしさん】
ご質問について、可能な限りにおいてお応え致します。 「輪郭が濁る」、すなわち輪郭がはっきりしなくなる(様に見える)原因の一つに、非常に微細な泡がパーツと地玉との間に発生したことが考えられます。そのために光が散乱され、界面がはっきりしなくなることがあると思います。 泡の発生が濁りの原因とすれば、その原因として、
(1)パーツの熔着時に空気の巻き込み
(2)パーツ表面の変質
(3)パーツ表面の有機物や金属による汚れなどが考えられます。
(1)については、空気を巻き込まないように注意深く作業をする、(3)については、汚れを取るというこになります。 (2)のガラス表面の変質については、化学的な性質に基づいております。
ガラスは空気中に放置しておきますと、水分や炭酸ガスとガラスに含まれるアルカリイオンとが表面で反応して、表面が変質します。それに熱が加わったとき、分解してガスが発生します。それが泡の原因になることがあります。
変質の程度は高温多湿の環境でガラスを長期間保存しておきますと大きくなり、また、トンボ玉用などのアルカリ成分の多いガラス素材は窓ガラスなどに比べて変質し易いものです。
パーツを作ってからなるべく早く使うことが望ましいと思いますが、長期間保存する場合は、乾燥剤の入った乾燥状態での保存で問題を軽減させることができるかも知れません。
ミルフィオリの使用のように、融けたガラスに温度の低いガラスを接触させると泡が発生し易いものです。パーツの十分な余熱が泡問題を軽減することになると思いますが、これも過ぎると形崩れで輪郭の不明瞭さを招きますので、限度があると思います。
技術的にはかなり制限された条件下での作品作りになる場合もあるかと思いますが、ガラスの性質をうまく利用して下さい。
純金銀箔を使いとんぼ玉を作りをしていますが、金箔は綺麗に出来ても 銀箔はどうしても茶色く変色し汚くなってうまく作れません。高温で解けると聞いて いたのでなるべく温度を上げない(あまり溶かさないで)でやってもうまくいきませ んでした。
特に透明ガラスのコーティングをするとほとんどだめでした。 完了まぎわに表面貼り付けでは良いのですが・・。 銀箔玉のポイント・注意点を教えて頂けませんでしょうか。【ねこさん】
変色は、高温で銀(金属)がガラスに溶けやすい化学形(イオン)になり、そして、 ガラスと接触することによりガラス中に拡散して、銀による着色を引き起こしたものです。 そこで、変色を抑えるためには、原因の排除、すなわち、(1)銀を溶けやすい化学形にしない、(2)溶けた銀をガラスの内部にまで拡散させないなどを考慮する必要があります。
では具体的にはどうすれば良いのでしょうか。(1)について、銀イオンになるということは、銀が酸化されることですので、還元炎で作業すれば銀の酸化は抑制されるはずです。(2)について、銀イオンがどの程度内部まで進入するかは、作業温度が高く、時間が長ければ奥にまで入ります。
したがって、なるべく低い温度で、短時間に作業を完了することが望ましいことになります。
しかし上の二つの対策は完全ではありません。銀の酸化は低温でも起こり、ガラス中にアルカリイオンがありますので銀イオンの拡散も容易です。 完全に変色のない銀箔玉を目指されるとすれば、白金箔をお使いになるのも一つの方 法ではないでしょうか。
キナリガラス棒のソーダB-19番の色が上手く出ません。 最初はほとんど黒でしたが、色々本やホームページで情報を探して ガスの量空気の量を加減し、濃い赤まで近づきました。 でも、ガラス棒の色は遥かに薄く澄んだ赤です。 どうすれば、ソーダのロッドのような赤が出せますか? 【mikkoさん】
色ガラスの発色に関わる要素(発色基といいます)には大きく分けて二つのタイプに分けられます。 そのうちの一つに、着色粒子のコロイドによる発色があります。お尋ねの赤色もこのタイプです。 コロイドというのはナノの大きさをもった粒子で、それがガラスの中に分散されてガラスが着色します。(ナノメートル(nm)は、10億分の1メートル) 一方、ガラスは熱していくと軟化して水飴状の液体になります。
液体のようになったガラス中で、コロイド粒子の数も増え、サイズも大きく、成分も少し変わるなどコロイド粒子の性質が変化します。 このことは、発色する性質、すなわち光に対する性質が変わります。以上がお尋ねのガラスの色が変わった理由です。
この変色は大ざっぱに言って、ガラスが曝された温度と時間に関係します。変色を小さくするには、低温、短時間作業で完了することが必要ですが、私がご質問を受けて実験を行いましたところ、600℃、30分で既にかなり濃い色に変わりました。(600℃はガラスが少し軟化する程度の温度) 従いまして、とんぼ玉を作製する温度域で変色は避けられません。このタイプのガラスで配色を考えられるときは、熱を加えた後の濃い色がそのガラスの色として設計されるようお薦めします。
kinariのガラスですと、B−1のオレンジが近い色と思いますが、これも高温で変色の可能性がありますので、ご確認下さい。
質問3で質問した、よしです。
丁寧なお答えありがとうございます。とてもためになりました。ガラスはいろいろな扱い方があって、やればやるほど奥が見えなくなりますね。。ステンドグラスから入って、今はバーナー・フュージングですが、いずれ切子のようなカッティングやサンドブラストもやってみたいと思っています。なんだか、とても良い相談場所を見つけて嬉しいです(^^)
さて、新たな質問が2つあるのですが。。
1:黒色など一部の色では、表面が銀化してしまうという現象があると思います。エアーバーナーの場合は、最後にエアーを絞ってあぶり直すか、そのまま炎の下の方であぶるかで解決できるのですが、電気炉の場合、何もできないため、必ず銀化してしまいます。これは、仕方無いのでしょうか?
2:とんぼ玉の除冷についてなのですが、「バーミキュライト等で簡易除冷して完全に温度を下げた玉を、再度電気炉で歪をとる温度域まで上げ、ある程度キープした後、段階的に時間をかけて除冷する・・」という方法は正しいでしょうか? 複雑な細工をして何度もあぶり直した玉などは、数日たってから割れてしまうことがたまにあるため、確実に歪を取り除く方法を模索しています。とりあえず現状ある道具では、芯棒ごと電気炉には入らないため、2段階でできないものかと思った次第です。ガラスに何も影響を出さず完全に歪を除けるなら、割れそうな玉の時、手順に取り入れようと思うのですが。。ちなみに、1の質問はこの除冷法に関係しています。
以上 よろしくお願いします【よしさん】
ガラス工芸に対していろいろ発展的な夢をお持ちのご様子を拝察して、私も悦びとするところです。
ご質問の件につきましてお応えいたします。
1.黒色ガラスの銀化は、ガラス中に含まれる酸化鉄の酸化と還元の微妙なバランスの上に生じる現象です。陶磁器釉薬のうち、黒色の天目釉で現れる油滴紋と似た現象と推察できます。
ただし、お尋ねの場合が油滴天目釉と同じかどうかは分析しないと分かりません。 そこで、仮定の下にその考えを推し進めますと、少し専門的な話しになりますが、以下のように考えられます。酸化炎であぶったとき、ガラス表面に酸化第二鉄(Fe2O3)の結晶ができます。その結晶によって光が強く反射されるので、銀化の現象となります。それを還元炎であぶると結晶は酸化第一鉄(FeO)に変わり、それはガラスに溶けやすいため、結晶が消失し、銀化現象がなくなるのです。
次に、ご質問にあります電気炉ですが、還元雰囲気で焼成できるものも市販されています。ただ、この場合の電気炉は徐冷ではなく、成形作業に使用するということであれば、かなり特殊な構造になると思います。
2.ご質問の「簡易徐冷と精密徐冷を組み合わせる方法」は、正しい方法ですし、より望ましい方法です。折角のご労作を無駄にしないためにも推奨いたします。
ついでながら、徐冷について少し記述しますと、ガラスに力を加えたとき変形し始める温度(実際はそれよりも少し低い温度)から50〜100℃下がるまでの温度域で徐冷すれば、歪みは取れると思います。キナリガラスでは高々500℃から350℃位までの間で徐冷すれば充分です。通常の炉では酸化雰囲気です。銀化を抑えるにはできるだけ低い温度が望ましいので、450℃位からの徐冷でも充分歪みは緩和されると思います。ちなみに、500℃での焼成では目立った銀化は起こりませんでした。
ガラスの語源は何でしょうか?なぜ、クリスタルガラスというのですか?
クリスタルは鉛のことなのでしょうか? 【リョウタさん】
ガラスの歴史を思い巡らす上で大変よいご質問を受けました。私も知識として漫然と持っていますが、 早速手持ちの本やインターネットで調べ、知識を整理する良い機会となりました。 以下にご質問に関する要約のみを述べます。
日本では古来よりガラスに対して『瑠璃』、『玻璃』、『ビードロ』、『ギヤマン』、『硝子』、 『ガラス』の用語が用いられてきており、これらはすべて外来語です。言葉は物(ガラス製品)と 共に我国にもたらされた訳ですから、その時々の交易事情を反映しています。すなわち、『瑠璃・玻璃』は インドから中国を経て、漢字の伝来と時を同じくしてその呼び名が入ったと思われます。
そして時代は下って、16世紀にポルトガルとの交易が始まり、ガラスを意味するポルトガル語の 『ビードロ』が、そして、徳川時代中期にオランダ語の『ギヤマン』が伝わり、明治の初めまで使われていたようです。 一方、『ガラス』は英語を語源とする『glas』がオランダから徳川時代に入り、明治以後、一般的に普及しました。 『硝子』はガラス原料の一つである硝石からその文字を当てたそうです。何故、量的に多く使われる珪石ではなく硝石 なのでしょうか。やはりアルカリ原料に苦労した故でしょうか。
現在、英語でglassの他に、『vitreous』(ガラスの)が用いられていますが、ビードロの語源であるラテン語に 由来しています。フランスを含む南ヨーロッパでは、ラテン語を語源とする語がガラスを意味します。 『クリスタルガラス』が現在では『鉛ガラス』の食器や工芸用ガラスを指すのに使われるようになったということも ガラス産業の発展の歴史をたどることによって理解できます。『クリスタル』は水晶のことで、『澄みきった氷』を 意味するギリシャ語『クリスタロス』を語源とします。
古代、ガラスのアルカリ原料は一般に草木灰等天然物から得ていたので、不純物が多く、無色透明なガラスは 得難かったのですが、15世紀にイタリア、ベニスで原料の精製と物理的消色法が発明されて無色透明なガラスが 得られるようになりました。これを上記の語から『クリスタッロ』と名付けたので、それが『クリスタルガラス』の 語源となっています。その後、クリスタルガラスの中心は、『ボヘミアンクリスタル』へと移る訳ですが、同時に イギリスで製造方法の変遷から新たな融剤が検討され、17世紀に酸化鉛を用いることが発明されて『鉛クリスタル』 が登場します。
現在では酸化鉛を24%以上含む食器用および工芸用ガラスをクリスタルガラスと呼び、それ以下のものを セミクリスタルと呼んでいますが、上記の歴史的な経過から鉛を含まないものでもライムクリスタル、 ボヘミアンクリスタルという分類もあります。 歴史的に古いガラスについてその語源を訪れることにより、ガラスの発展と伝搬の過程、背景となる歴史を知る ことができるので、大変興味深いことです。
前回、除冷について質問させていただきましたが、ずっと解決せずに漠然と悩んでいたものが完璧にクリアになりました。 ありがとうございます。 さて、今日もまた質問させてください。
ガラスのマドラー作りはバーナーワークの基本で良くとりあげられますが、クリスタルガラスで作成した場合、鉛成分がとけだすようなことは無いのでしょうか?
そもそもクリスタルの高いグラス等も市販されていますし、体に問題が出るということは無いだろうなと思うのですが、色によってさまざまな成分が混ぜられているということもあり、どちらかというと、液体にガラスが触れていた場合、鉛成分以外も含めて厳密にはどうなるのかな・・という興味で質問しました。
以上、よろしくお願いいたします。 【よしさん】
よしさん。お役に立てて幸いです。
今回は、ガラスを扱う者として自覚すべき大変大切な問題提起を頂きました。詳しくはいろいろ解説書もありますのでそちらに委ねるとして、以下に簡単に述べます。
近年、地球環境保全の立場から有害物質の使用を規制する動きがますます高まっています。その中でガラスに関係する重金属類に関しても種々の検討と対策が採られてきています。ご質問の鉛ガラスについても古くから規制の対象となっており、結論的に申しますとクリスタルガラス食器など経口摂取の可能性のある鉛ガラス容器を通常の条件で使用される限り、安全は保障されています。つまり、ガラス食器からの鉛の溶出に関する国内規制として食品衛生法があり、人体の解毒能力を考慮して、法律で定められた試験法で5ppm以下と規制しています。市販されている国内産食器類での試験結果では殆どが1ppm以下であったという報告があります。
ここではガラスからの鉛の溶出についてもう少し突っ込んで考えてみましょう。既にご存じのとおり、溶出といっても鉛だけが出てくるのではなく、ガラス自体が水などの液体によって侵食されて、その結果、含まれている有害な元素が液体中に溶け込むことです。
したがいまして、安全性は水に対し耐侵食性のあるガラスか否かに関係します。
一般的にガラスはアルカリ性溶液に弱いものです。また、ガラスにアルカリ成分等が多く含まれる、骨格の弱いガラスは酸性の液体にも浸食されやすいのです。
もちろん温度が高いと浸食速度も大きくなります。日常生活では、前者はアルカリ性洗剤を用いた食器洗い器で、また、後者は酢の物やジュースを入れたときが、それらの条件として考えられるでしょうか。
ご質問にあるとおり、鉛以外にも色ガラスには着色剤として重金属が含まれています。それらの量は鉛の量に比べて1/10〜1/100ですので溶出量は少ないですが、同様の考え方で対処して下さい。
お尋ねのマドラーの場合ですが、ガラス素材が何であるかに依ります。工芸ガラス用ですと骨格の弱いガラスに属するものも多いと思われますので、鉛ガラスや色ガラスは避けられた方が無難でしょう。ただし、使用頻度等から考えて健康上の問題を引き起こす様なことはないと思います。
地球環境への影響と負荷に対して、重金属問題は、製造、使用、廃棄の各側面から考えなくてはなりません。製造、使用に関しては厳しく定められており、ここでは触れませんが、廃棄については大問題になっており、今後、回収システムの構築や当該成分使用の制限等が進んでいくことでしょう。
最後に一言申し添えますと、ガラス化されたものはかなり安定ですので、神経質になることはありませんが、特に、工芸ガラスについては多くの種類の色ガラスを必要としますので、それだけに重金属問題は避けて通れません。外には、電気・電子製品のいろいろの部材には鉛ガラスが使われています。鉛クリスタルも含めて、重金属を含んだガラスは、地球規模の長期的な視点から、ガラス片と言えども不用意な捨て方をしないようにしましょう。
ガラスを一度結晶化させるともう元の粉末原料にはもどせないのでしょうか!? たとえば、酸化鉛、ソーダ灰、シリカ等に。また、アクセサリーのガラスとメガネのガラスとは無縁なのでしょうか? 【たけさん】
ご質問の内容は、要らなくなったガラス(一般にカレットと呼んでいます。)を、資源として有効な形に戻せないかということと思います。そこで、ご質問のポイントが二つと思いますのでそれぞれ分けてお応えします。
最初の「元の粉末原料に戻せないか」という問いに対しまして、技術的には可能です。また、各成分に分離・精製するための前提に、結晶化の有無は関係ありません。湿式による化学分析は、それぞれの元素に分けてそれらの量を測定しますから原理的には同じことです。しかしそれが行われないのは、コストの問題です。
有害元素といえども有用元素ですから、ご質問のお考えは、限りある資源の有効利用を計る上で大切と思います。それが第二の質問につながると思います。
ガラスは結晶などと違って、化学組成は無限です。ご質問のアクセサリーとメガネのガラス組成はもちろん違います。厳密な言い方をしますと、テーブルの上にありますガラス器材一つ一つの組成は異なっています。イメージとしてガラスはいろいろのものを溶かし込んだ液体のようなものです。それがガラスの特長の一つで、色とか膨張係数とか、望みの性質を自由に設計可能にしている訳です。
一方、ガラス組成の千差万別が、資源の再利用という観点からは大変難しくしています。原料成分まで分離回収することはコスト面から現状では現実性はありません。
そこで類似製品毎の分別回収によって資源の再利用を計ろうとしています。びんでは色毎に、テレビのブラウン管や自動車用窓ガラスなどそれぞれ製品毎の分別回収が進められています。そして回収されたガラスは再びガラス原料としてそのまま使われます。製品をそのまま原料として戻せる素材はそれほど多くはありません。
そのとき、ガラス組成の似かよった同種のガラスでないと不都合が生じます。それで、リサイクル、すなわち資源の有効利用の原点が分別回収であり、重要な鍵となるわけです。 何かお役所の宣伝がましくなって申し訳ありません。
はじめまして。このページはいつも参考にさせて頂いています。早速ですが、前回色が変わるガラスというのがありましたが、懸賞などの賞品のグラスで、冷たい飲み物を注ぐと白い桜の花びらや紅葉の絵柄がピンク、または赤色に変化するモノがありますよね。 あの塗料(?)は一般で入手出来る物なのでしょうか?ガラスの作品にもっと使えたらいいなぁと思います。
ちょっとガラスから外れた質問でしょうか?申し訳ありません。回答をよろしくお願い致します。
ご質問の内容は私の専門外のことですので、知人に尋ね、また、インターネットで調べたことを報告します。
お尋ねの温度によって色が変わる現象をサーモクロミズム(Thermochromism)といいます。
ある種の有機分子や液晶が、その性質をもっており、示温材料と呼ばれています。
マイクロカプセル化して温度計や装飾品(ペンダント、ネクタイピンなど)に利用されています。
また、いろいろな種類の示温材料を組み合わせて、色相や色変化も様々なものができています。
そして、産業用のいろいろな温度管理に用いられ、また、家庭用では台所用品などの温度感知に利用されています。
製品としては、テープ状にしたものが一般的なようですが、「サーモペイント」として塗料にしたものも販売されているようです。
詳しくはインターネットで「示温材料」で検索してみて下さい。
初めて質問させていただきますが、いつもこのコーナーはとても役に立ち、参考にさせていただいています。
さて、このたび、とんぼ玉のクリアがけについてお尋ねしたいのですが・・・
キナリのガラスを使用し、小さな模様入りの地玉を巻いてその上に無色透明のガラスを全体的に巻いたときに、下の地玉の模様が若干くすむと言うか、ぼやけると言うか、霞がかかったようになる事があります。
それは、地玉にクリアをかけるときに、地玉とクリアガラスの温度差がある事によって生じると聞いたことがあります。
細かい事をお聞きするようで申し訳ないのですが、このくすみは化学的にはどういうものなのでしょうか・・・
また、生じてしまったくすみはもうとる事は出来ないのでしょうか。お教えください。
いつもものすごく丁寧に回答して頂いている事、本当に助かります。
これからも勉強させていただきますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
ご質問にお応えするのが遅くなってしまい、申し訳ありません。
ご質問のような状況に私自身が出会したことがありませんので、発生までのプロセスが掴めず、
的確なお応えができませんが、喜南鈴硝子の皆さんのご意見も交えて一緒に考えてみましょう。
「霞がかかったようになる」原因はいくつか考えられると思います。
しかし、ここでは地玉にオーバーコートガラスを被せるときに、温度差がある場合をポイントにされていますので、そのケースについて考えてみたいと思います。
不思議に思われるかも知れませんが、ガラスの表面は空気中の水や炭酸ガス、その他のガス成分を吸着し、
そして反応を起こします。以前に質問3へのお応えでもそのことに触れています。ガラスと空気中の気体との反応は、バーナー中の炎の中でも起こると考えて下さい。炎の中には、酸素、窒素以外に、燃焼により発生した水分、炭酸ガス、それに未燃焼の燃料ガスや一酸化炭素、炭素が存在します。反応の仕方は、炎に曝されている温度や時間、還元炎か酸化炎か、それにガラス組成(ガラス中の成分)によって異なるでしょう。
それらの条件の違いによって、ガラス表面に取り込まれた揮発成分の量や種類も異なります。
そこで温度の違うガラスと接触すると、すなわち、温度の低い地玉に温度の高いコートガラスを被せたとき、温度の低い地玉から発泡する可能性があります。そのような過程で“くすみ”が生じたのであれば、それは地玉との界面に細かい泡が発生したためです。
これはガラス中に閉じこめられた泡ですので、形崩れしない程度の温度であぶり返しても消失しないと思います。
更に注意すべきことは、徐冷に用いられる灰やバーミキュライトが湿っていたら、熱い地玉をその中に入れたとき、蒸し焼き状態になることが予想されます。
すると、ガラス表面で水分と反応します。したがいまして、徐冷に用いられる粉末も乾燥状態で使用することが必要です。 いろいろ難しいことを書きましたが、ただ視点を変えて、炎の中のガラスが、貴方の手によってどのような変化をもたらされているのか、積極的な意味も含めて考えるのは楽しいことですし、また、技術の向上にも寄与するのではないでしょうか。
バーナーであぶったガラス表面がどのように変化するかを調べた研究報告を探さずに、推測でこの報告を書いていますので、必ずしも正確な実験事実に基づいていないことを申し添えておきます。
Kinariのガスバーナーでとんぼ玉をつくっているんですが時々玉の表面にすすのようなよごれがはいってしまいますどういう原因か教えて下さい。
私もとんぼ玉技法に接するようになってから初めて「すすが入る」という言葉を知りました。「すす」といえば一般的にはものを燃やしたときに発生する炭素粒子の集まりを思い出します。
炭素と融けたガラス表面とは大変濡れ性が悪く、炭素の粒子がガラスの中に容易に入ることはありません。しかし、作業中に炭素粒子をガラス中に巻き込めば、これは本当に「すす入りガラス」になってしまいます。
しかし、お尋ねの件は、バーナー加工中に黒あるいは茶褐色に変色することを指しておられると思います。これは燃焼ガス中に発生する各種の気体とガラス中の成分とが融けたガラスの表面で化学反応を起こし、ある種の元素の(電子)状態が変わるために生じる現象です。
この変色は炎が還元状態のときに起こりやすいのですが、燃焼状態は燃料と空気の量だけでなく、各部分においても発生したガスの種類、温度や還元の強さが違います。一方、ガラス成分では鉛、スズ、亜鉛、アンチモン、ヒ素、その他が入っていますと、還元炎では変色しやすいと言われています。
この現象を理論的に攻めるのであれば、燃焼工学とガラスや陶磁器釉薬の酸化還元平衡を勉強されるが正攻法ですが、実際は製作を通して、炎の中で起こった結果を見つめ、あるいは想像しながら経験的に学ばれるのが技術の向上につながると思います。
ただ上記以外に、白ぎょくの地にクリアを掛け、その界面が凹凸しているとき、変色しているように見えることがあります。これはガラス内部の立体的な構造が引き起こす、光の透過、屈折、吸収、反射などが織りなす光の戯れによって、単に陰がそのように見えるだけですので誤魔化されないようにしてください。
いずれにしても、精魂込めた作品ですので、出来上がったら10倍以上のルーペ(拡大レンズ)で細部を観察する習慣を着けましょう。炎の中で起こっていることへの想像が豊かになることと思います。
「ガラスの成分と性質について」レポートを書かないといけないのですが、ガラスの成分と性質を教えて下さい。お願いします(*^_^*)☆
「ガラスの成分と性質について」、それに「ガラス構造」を加えれば、ガラス科学の専門書を書くことと同じと思います。
ガラスの組成というのは結晶や鉱物のようにある一定の組成をもっているものではありません。ソーダ石灰ガラスと言っても、その組成種は無限にあります。ガラス組成、つまり成分の組み合わせは無限にあり、ある組み合わせの中でガラスになる範囲というのが存在します。これを「ガラス化範囲」と呼んでいます。
成分が変われば構造も変わり、性質も変化します。ガラスの面白いところは、徐々に成分の量や種類を変えていくと、それらは連続的に変化していくことです。
宿題の件ですが、適当に処理するということであれば、ガラス科学の専門書を適当に開いてその章に関係した物性についてまとめればレポートは書けると思います。
しかし、このコーナーの目的として、ガラスを日用使う実用的な立場から、あるいは美術・工芸品として美的観点から、あるいはホビー、工業材料として自らが扱う立場から、いろいろな側面からより多くに方々にガラスを知って、関心をもってもらうことを願っております。この宿題も折角のチャンスですから、日頃ご自身がガラスに対してもっておられる関心事項、例えば、「ガラスは何故透明なのか」、「あのガラスの色は?」、・・・・、などから課題になるようなポイントを探せば、ご自分の知的好奇心も手伝って、さぞすばらしいレポートになると思います。
また、ニューガラス関係の解説書などを少し目を通して頂ければ、日頃もっておられるガラスの常識を打ち破るような性質をもった新しいガラスもぞくぞく紹介されています。
この際、ガラスの一端でもいいですから、講釈師になって下さい。
アベンチュリンを溶かし込もうとしたのですが、無理でした。キナリでは融点が低いのでしょうか。それとも、何か触媒になるような薬品が必要だったのでしょうか。もし、アベンチュリンをキナリに溶かし込む方法があったらおしえてください。引き棒にして作品に使ってみたいのですが・・。 私がやった作業は、洋書Making glass of beads(Cindy Jenkins著)を参考に行いました。ですから、本の中のガラスはモレッティなどを使っている可能性があり、融点の問題などを疑っています。
小さく砕いたアベンチュリンを、透明のガラス棒を溶かしたところに混ぜ、バーナーで熱し溶かし込み、その後引き棒にする・・・という工程です。(本のとおり)私は、エアーバーナーではなく、ガスバーナーを使用しています。そのため、作業温度も低かったのかもしれません。アベンチュリンはガラスの中でやわらかくなりはしましたが、溶け込まず、クッキーの中のチョコチップのような状態にしかなりませんでた。
引き棒にして、トンボ玉の装飾に使用できる様にするにはどうしたら良いのでしょうか。以前、東急ハンズの鉱物のところで、アベンチュリンを見たときに、ガラスにまぜる薬品の名前も見たことがあるのですが、そういったものも必要なのでしょうか。
ご質問をお受けしてから早速、喜南鈴硝子さんの方から本を取り寄せて、読ませて頂きました。それで作業された手順については理解できました。
一般的にガラス加工において、異なるガラスを接合するときに重要な性質は、熱膨張係数、ガラスが固まるガラス転移温度、それにガラス作業温度(ガラスを成形、加工するのに適した粘性をもった温度領域)に配慮する必要があります。
今回お使いになったアベンチュリンガラスの熱的な性質がキナリガラスと似ているかどうかと言うことです。(アベンチュリンは水晶の一種である天然鉱物がありますが、お使いになったのはアベンチュリンガラスと思います。)
ご心配になっていますように、お使いになったアベンチュリンガラスはキナリガラスに比べて作業温度がかなり高いのではないかと推測致します。それが原因ですとバーナーの炎の温度を上げないとどうにもなりません。
高温で作業して両ガラスを馴染ませたとして、両ガラスの熱膨張係数差は許容範囲にあるのでしょうか。それを合わせておかないと今度は割れにつながる可能性があります。
もう一つの「ガラスに混ぜる薬品」というのは、これだけではちょっと想像が付きません。
はじめまして。ガラスのなにかしらの性質を利用して1000℃まで100℃きざみの温度を測定したいのですが可能でしょうか。またガラスを薄い板状のものとして測定部分に貼り付けたりすることは可能でしょうか。教えて下さい。よろしくお願いします。 【 北川晃洋さん】
ガラス物性値の温度変化は、すべての物性において見られますので、いろいろの目的でその関係が調べられています。そして、一般的には物性値を測定する方が温度測定をするよりも複雑な操作になります。したがいまして、特殊なケースを除けば物性値の変化から温度を測ることはしません。
お尋ねの件につきまして、バーナーワーク中のガラスの温度を把握したいとのお考えと思います。そこで通常行われているのが、ガラスの色温度や軟化程度(粘性)で作業基準を捉えることです。ここには人の五感と経験がものを言う世界でしょうか。
蛇足ながら加工中のガラスの温度を測定するには赤外線放射温度計を用いるのが一般的です。また、400℃以下の低い温度ですと、「サーモペイント」、「サーモクレヨン」、その他の示温材料を用いることもできます。詳しくはメーカーにお尋ね下さい。
ご質問の「ガラスを薄い板状のものとして測定部分に貼り付け」につきまして、具体的な内容が分りませんので、的確なお応えにはなりませんが、一般的には可能です。